頭の楽健法

  宇治木 敏子

 山内宥厳師からいただいたテーマ「頭の楽健法」について、私なりの角度から考えてみました。
 私は、乳幼児虐待の予防を社会貢献として活動するNPO法人の代表を務めています。
 主には乳幼児との心のふれあい術「タッチ・コミュニケーション」を提唱していますが、心のふれあいは乳幼児期から終末期に至るまで、年代を問わず人間に とっては大切な心の糧です。そして大きな視点で観れば「楽健法」もまた、身体への効果と共に心の糧となると私は考えています。

 人は、心を持って生まれてきます。そして、生まれてすぐ泣いて「私が今、ここに存在しているよ」ということを周りの人(母親)に知らせます。つまり、私たち人間は、生き延びるために本能的な強い存在認知欲求をもって生まれてくるのです。
 赤ちゃんは泣くことで、母親に自分の存在を知らせます(刺激)。そして、母親が抱っこしてくれる(応答)のを待ちます。そのようにして赤ちゃんは抱っこ されることで「自分が今、ここに在ること」存在認知欲求が満たされ、同時に心が安心した状態を味わうという体験を何度も繰り返して育っていきます。とりわ け、乳幼児期の心の栄養はスキンシップです。乳幼児のスキンシップ不足は心身の発達の遅れや命に関わる重篤な問題に繋がることが、発達心理学の分野で明ら かになっています。

 私たちは、水や食物がないと生きていけないのと同様、心も栄養不足になると生きていけません。ただ、心は目に見えないため、意識し難いのですが。
 私たちが、今ここに生きていられるのは、赤ちゃんだった頃、抱っこしてもらったり、おっぱいをもらったり、あやしてもらったり、スキンシップによって、心の栄養が得られたからです。

 しかし、親も人間ですから、赤ちゃんの思う様にばかりには関われません。ですから、人間は誰もが乳幼児期に欲求不満も感じて育ちます。つまり、「信頼」 だけではなく、同時に「不信感」も味わうのです。そして、「信頼」と「不信」の狭間を揺れながらも、「信頼」を基盤に「基本的信頼感」を身に着けて、次の 発達段階に踏み出すことができるのです。

 また、私たちには、それぞれの養育歴があります。幼い時、命綱である親、または親に代わる保護者、そして周りの環境に適応しようとして、「心の傾向」が 出来上がっていきます。その心の基盤は、3歳位までに築かれるといわれています。「三つ子の魂百までも」とは、そういうことだったのです。

 さらに、人は環境に適応し、生き延びるために「こういう時にはこうすべきだ」など自分なりに枠組み「スキーマ」を作ります。私たちは、自分の「スキー マ」(色眼鏡)を通して世界を観ていますので、同じお母さんから生まれ育った兄弟であっても「心の傾向」も「スキーマ」も異なります。

 人と人の交流は、良いことばかりではありません。現代の社会課題の一つ「メンタル不調」は人間関係が最も大きな原因といわれています。
 また、他人なら許せることも、関係性が近くなればなるほど、ちょっとしたズレや違和感が大きく感じられたり、側にいても寂しさを感じたり、心が傷ついてしまうこともあります。
 私たちは、独自の「スキーマ」を通して物事を見るので、同じものを見ているようでも違ってみえる、即ち誰にでも通用する共通の「常識」はないということ なのです。まさに、山内師が「頭の楽健法」をテーマに出題されたのも、人の数だけ楽健法の捉え方があっても良いのでは、と私たちに問われているのではない でしょうか。

 私は、産婦人科等で、産後直後の母親に発達心理学を基にした赤ちゃんとの関わり方を、ベビーマッサージの実践を通してお伝えしてきました。ベビーマッ サージの研究は、アーユルヴェーダで著名な医師、上馬場和夫氏や産婦人科医師らと共に2000年から始め、赤ちゃんにベビーマッサージを施術する親も、施 術を受ける子どもも双方にストレス軽減効果が検証されました。また、スキンシップを通して心が触れ合うことは、オキシトシンという、心臓の細胞を修復して くれるホルモンが分泌され、寿命を延ばすこともわかっています。

 上馬場和夫氏は、楽健法をベビーマッサージと同様、タッチ・コミュニケーション効果があることを研究され、学会で発表されたことがあります。
 楽健法も施術する側とされる側双方にストレス軽減効果が認められ、さらに寿命を延ばすことも期待できるのです。

 さらに、私はそれ以上に楽健法のすばらしい効果をお伝えしたいと思います。
 乳幼児期は、ベビーマッサージを含め、スキンシップをしっかりとることが重要であることは前述の通りですが、しかし人は誰もが乳幼児期のスキンシップ不 足、欲求不満を無意識に抱えています。そして、乳幼児期に得られなかったものを、人は生涯を通して、無意識に求め続けます。また、その潜在的な課題は、大 人になっても心身の病気、コミュニケーションの障害等、色々な問題を引き起こす要因となります。

 しかし、その具体的、根本的解決法、つまり無意識化にある過去の欲求不満の解消方法の一つが、楽健法だと私は考えます。当NPO法人では、大人同士はもちろんですが、5,6歳児からの「親子の楽健法」を推奨しています。
 毎年夏休みには、山内師直伝で、親子の楽健法を楽しんでいただくプログラムを開催してきました。子どもは親の体を踏むことで、親は子どもの体を踏むこと で、またご夫婦で踏み合うことで、心身の健康増進だけではなく、お互いに持っている過去の無意識層にある欲求不満をも解消することが期待できます。

 以上、乳幼児期のスキンシップと同様、楽健法も心触れ合う「タッチ・コミュニケーション」としての側面を持ち合わせているということ、そして、さらに楽健法には過去のトラウマさえも時空を超えて改善する効果が期待できるということを皆さまにご紹介させていただきました。
 長々と自論を唱えましたが、最後まで読んでいただきましてありがとうございました。